リカーブボウチューニング

本当のチューニングの始まり・あとがき

本当のチューニングの始まり

ここまでの作業をすべて終えたら、完璧にチューニングされた弓となっていると思いますが、残念ながら、チューニングが完璧の状態が、最高の状態とは限りません。

イーストンがオリンピックで行った調査では、出場した選手のうち、スパインが正しかった選手は44%しかいなかった。適正値より柔らかいシャフトを使用した選手はほとんどいなかったものの(6%)、適正よりも硬いシャフトを選択した選手は半数にものぼる50%でした。

当然オリンピックに出場している選手ですから、チューニングを怠ったわけではありません。チューニングの結果として、適正ではない、硬めのシャフトを選択したと言えます。チューニング(ベアシャフトチューニング)において、適正とは、ベアシャフトとフレッチングされたシャフト(完成矢)が同じ場所に刺さることですが、それは、シャフトが羽なしでもまっすぐ飛び出していて、シャフトのパラドックスが左右対称でスパインが正しいというだけであり、スパインが正しければグルービングするかという疑問に対しては、違うというしかありません。

おそらく、室内環境のシューティングマシンでテストすれば、スパインが正しいシャフトが一番グルーピングするという結果になります。しかし、実際に試合で射つのは機械ではないし、環境も変化します。

オリンピックでは90%以上の選手がX10シャフトを使用していますが、風への対策として、シャフトを変えず、FOC(矢の重心)の値を変更しないでより重い矢を使用したいなら、必然的に適正なスパインより硬いシャフトを選択することとなります。ホイットの開発者のダグラス・デントンによれば、ブレイデイ・エリソン選手はベアシャフトチューニングで、矢が少し柔らかめで、ノッキングポイントが少し低い状態にあることを示す結果がベストのようです。

また、ウォークバックチューニングについて書きましたが、正直リカーブでやったことありません。そんな事をしなくても、明るい環境の射場で70m射って矢飛びとグルーピング見て調整すれば十分だと思います(ただ、50mで矢速が速いコンパウンドでは必要なチューニングなので当然何度もやってはいます)。

ここまで散々”正しい”チューニングについて、説明をしてきましたが、最終的には、グルーピングが全てです。私が全日本選手権に出場したときも、適正、50番硬い、100番硬い3ダースの完成矢を作ってグルーピングを比較しました。結果は100番硬いものが最もグルーピングしました。その理由はおそらく、カムの設定位置による過剰なトルクでしたが、それが判明したのは全日本選手権が終わってからのシーズンオフ期間に最初から全て再チューニングしたときです。

理由がわからなくても試合日は決まっています。テストした結果、原則とは違っていても、グルーピングする方を選択する価値はあります。この事をエンジニアのドン・ラブスカは、

However, I don’t feel so bad about these theories when you consider that doctors “practice” medicine.

と書いています。病院で手術をうける時に使われる「麻酔」がありますが、その仕組は実は解明されていません。しかし、それによって痛みが緩和・感じなくなるのであれば、仕組みがわからなくても使っちゃおうというわけです。

ホイットではリムアライメントを一旦正しく合わせて終わりではなく、そこを基準として、少しずつずらして、グルーピングを見ながら調整チューニングもあると言っていました。フルドロー時にグリップにトルクをかけてしまう射形なら、あまり大きくずれるとリムのねじれに繋がりますが、弦がスタビライザーの真ん中ではなく、そこから5mm程度ずれている場所が最もグルーピングする可能性は十分にあります。他のメーカーではグルーピングのためではなく、腕に当たらないようにするためにリムアライメントをずらすことも選択できるといいます。

ここまで行った完璧なチューニングは最高の弓を手に入れるためのスタート時点です。ここが旅の始まりであり、迷子になったときに戻ってくるべき場所です。この先の幸運を祈ります。

あとがき

プロショップのスタッフとして、練習場・試合会場で見たアーチャーの半分以上はチューニングが合っていないと感じます。礼儀として、危険な時以外は指摘したりしませんが、かと言って、動的チューニングでプロショップに来られてもできることは限られます。

プロショップにもよりますが、10m程度の近射が最大距離なので、ペーパーチューニングくらいが限界です。ウォークバックチューニングができるショップは少なくとも東京にはないです。この問題を解決するために現在私営アーチェリー場の開発を行っています。もう少しお待ち下さい。

重要なチューニングの多くは距離を射ちながら、時間をかけて、弓と、そして自分に向き合いながら行うものです。それはプロショップで提供できるサービスではないので、このマニュアルを書きました。読者の方がじっくり自分の弓と向き合って、正しいチューニングをたどりつくことを願っています。

参考文献

Tuning Tips for Small Diameter Arrow Shafts by Don Rabska
Tuning your Hoyt Avalon Plus by Denise Parker
Bow and Arrow Compatibility Don Rabska 1997
Walk-back Tuning FAQ Written by: Stephan Melin
The Traditional Bowyers Encyclopedia by Dan Bertalan
トータルアーチェリー 2006年

【著者】

山口 諒(やまぐち りょう)

1985年生まれ。国際基督教大学高等学校卒、筑波大学中退。大手プロショップ勤務後、2007年独立「あちゃ屋」、2009年法人化、2024年まで(株)JPアーチェリー代表取締役。2024年9月に事業譲渡し、アーチェリー情報サイトの運営に専念。高校時代にアーチェリーを始め、翌年に全国選抜大会9位、2007年全日本ターゲット選手権初出場(リカーブ)、2015年全日本ターゲット選手権準優勝(コンパウンド)が最高順位。現在、出身の東京から熱海に移住。熱海にてこども食堂を運営中、食材費の寄付大歓迎です。

著作・翻訳・監修した本

リカーブ - 「異端のアーチャー -世界チャンピオンの秘密と技術」「アーチェリーの理論と実践」

コンパウンド - 「ターゲット競技のためのチューニングマニュアル」「コアアーチェリー」

ベアボウ - 「トラディショナルアーチェリー」「ベアボウチューニングマニュアル」